ブックタイトル鳴門塩田絵巻(サンプルページ)

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概要

鳴門塩田絵巻(サンプルページ)

63『鳴門塩田絵巻』の外観     はじめに 右の絵巻は、緒方常雄さんが昔のことを思い出しながら、細かなところまでていねいに描いたものである。この絵巻はすばらしいできばえであり、緒方さんのご幼少から実体験に基づいた経験豊富な内容で、塩業史料としてもたいへん貴重なものである。そこで、塩業を研究する者の使命感から自費出版することにしたもので、緒方家にも絵巻を本にすることについて快く了承していただいた。なお、当初は絵巻の原画と文だけを収録しようと思っていたが、中にはむずかしい用語があり理解しにくいところもあるので、後世の人たちにも理解しやすいように、私が理解した範囲で解説をすることにした。 緒方さんは、若いときから入浜塩田で働き、入浜塩田や流下式塩田について知らないことはないくらいよく精通し、常に創意工夫して働いて来られた。一つ例を挙げると、流下式塩田時代、ふつうに塩分濃度の濃い鹹かん水すいが採取されていたなか、緒方さんは塩分濃度のやや薄い鹹かん水すいを採とって、製塩工場へ出荷(パイプで送水)していたそうである。その理由は、鹹かん水すいの塩分濃度を濃くすると、風が吹いたとき泡となって飛散してしまい、鹹かん水すいの量が減ってしまうからで、塩分濃度のやや薄い鹹かん水すいを多く採とったそうで、そのほうが儲かったというものであった。塩田が廃止された後は、昔の入浜塩田時代を懐かしみながら、奥さんと一緒に紙粘土で形を整え、絵の具で彩色した浜人形をよく作っておられた。そのころ、この絵巻は作られた。 また、緒方さんのお話の中で特に印象深かったことが三つあるので、次に紹介したい。 一つ目は、入浜塩田のつくり方を書いたものはなく、先輩から口伝で教えられてきており、私(緒方さん)が最後の一人で、入浜塩田の材料の海粘土の取る場所や取り方などをお聞きしたこと。 二つ目は、浜の休みに塩田で働く人々やお手伝いさんたちと一緒に舟で瀬戸内海の海岸へピクニックに行き、漁師から買った魚を料理して楽しい宴会をして帰ってきた。このときの楽しかった思いがあったので、その後の暑い夏をみんなで乗り越えられたこと(詳しくは九四頁「浜子の遊山」参照)。 三つ目は、子どものときから「たぬきの伝説」をよく聞いており、実際、夜、寝ていたら塩田のほうでカンカン音がする。朝、起きて塩田へ行ったら足跡も何もない。これはたぬきの仕業に違いないと、私に笑いながら話してくれたこと。 そのほか、国指定重要文化財に指定されている「福永家住宅」の解体復元工事が一九八〇年から四か年かけておこなわれたが、指定当時なかった釜屋を再現することになり、技術者として派遣されていた賀古唯義さんたちは資料のなさに困ったそうである。そのとき、かつて鳴門自然水族館の郷土館に展示されていた精巧な釜屋の模型(上の写真)があることを知り、何度も模型を観察しながら緒方さんの詳細な説明を聞き、何とか釜屋を再現できたという。 絵巻を通して緒方さんの足跡を忍んでいただくとともに、緒方さんの作品のすばらしさを一人でも多くの方に味わっていただきたいと思う。                二〇一五年四月  小 橋  靖紙本著色。絵巻は緒方常雄氏の作品。『鳴門塩田絵巻』は次の3巻で構成され、大きさは次のとおりである。①入浜塩田絵巻、小こ日びより和仕事と子供27.5㎝×12m24㎝②せんごう釜絵巻26.5㎝×5m83㎝③流下式塩田絵巻26.0㎝×4m23㎝釜屋の模型(緒方常雄さんの作品)流下式塩田絵巻せんごう釜絵巻入浜塩田絵巻、小日和仕事と子供